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キミノニホイ

 今僕は、公衆の面前で、男に抱きし
められています。ラッシュアワーは外
れているといっても、人の数は決し
て少なくない、そんな駅で。

「サキヤくん……」
「黙れ。大人しく抱かれてろ」
「……ん」
 どうせ逃げられないのだからと、腕
の中でゆっくり深呼吸をする。彼の匂
いを確かめるように。
「サキヤくんの匂い、すき」
「……煽るな」
 そう、この匂いが……、君が……。

 今日、僕は初めて痴漢に遭った。
 携帯を家に忘れたことを駅目前で気
付き、走って帰宅したものの、いつも
の電車には間に合わず、何本か後の便
に飛び乗った。
 ホームで待っているだろうサキヤく
んには先に行ってとメールして、一人
電車に揺られる。
 すし詰め状態の電車はスーツ姿ばか
りで、漂う香りも異なるような気がし
た。カーブが車体と体に傾きを与える
ごとに、襲ってくる圧と臭い。初めて
感じる不快感だった。
 いつもは……、いつもなら……、サ
キヤくんしか感じないのに。

「そろそろ、解れよ」
 これは昨日、別れ際に彼が残した言
葉。どういう意味なのだろうか。一晩
経っても、当てはめるべき方程式は見
つからない。
 何を? と問う前に、サキヤくんは
背中を向けて歩き出してしまう。

(もお、問題ぐらい教えてよ)
 意識が彼に向かう内、濃くなる一方
だった不快感も、少しだけ薄らいでい
た。

 例えるなら風。彼は冬の朝のような
澄んだ風の匂いがする。その香りに、
僕は毎日包まれている。無防備に、全
てを委ねて。
 電車が揺れるたび回される手。背中
に感じる体温。密やかな息遣い。改め
て思い返す。サキヤくんとの距離を。
 銀色の眼鏡に落ちる前髪を、右手で
耳にかける。眉間にしわを寄せ、それ
はもう煩わしげに。
 もう片方の手は自由。そして、サキ
ヤくんの鞄を持つのは、僕の役目で。
 そうか、あのいつも空けてある左手
は、僕を守るために……。僕を……。

「そろそろ、解れよ」
 リフレインされる声。繰り返される
ごとに増す甘さ。

――ドクン、ドクン――

 鼓動が早鐘を打ち、体の芯が熱を持
ち始める。
 赤い顔を周りの人に見られたくなく
て、足元に視線を落とした。
 とその時、突然覚える臀部の違和
感。電車とは違うリズムで動くもの。
(手? ち、ちかん? まさか……。
僕、男だし、気のせいだよね?)
 でもそれが、気のせいではない事だ
と程なく判明する。

「何? どうしたの? 朝から厭らし
い顔して」
 獣の様な臭いと共に囁かれた言葉。
 そして……、
(あ!?)
 股間を揉みしだく手……。
「やっっ!」
「しっ! 大きな声出すと恥かくのは
君。ほら、前見て。」
(ま、まえ? だって、声は後ろから)
 恐る恐る顔を上げると、下品に笑う
リーマン風の男と目が合った。
「そいつらも仲間だから。」
(そいつら?)
 言葉が頭に入って来ない。嫌な考え
を拒否するかのように。
 しかし現実は、お構い無しにそこに
いた。

 ファスナーを下ろされ、潜り込んで
きた手はパンツ越しに股間を攻め立て
る。
 左から伸びる手は半分はだけられた
シャツの中で乳首を摘み、右耳は唇と
舌で蹂躙されていた。
 そして、臀部をまさぐっていた手は
谷間の窄まりを擦りだす。
「こんなにおっきくして。お汁もいっ
ぱい。パンツまでヌルヌルだよ」
「乳首感じる? 感じるよね? 女の
子より立ってるし」
「噛まれた方がいいんだ。変態? き
み」
「指入れちゃおうかなぁ、ここに」

 4人は雑誌や鞄で巧みに淫行を隠し、
僕の体を縦横無尽になぶっていった。
 全てが気持ち悪いはずなのに、触ら
れた個所は素直に反応してしまう。
(僕の体、何? 嫌なのにっっ!)
 夢の中でも起きないような出来事に
言葉一つ出せずにいる。
 そして、迫りくる射精感。
(だめ! それだけは絶対! 隙を見
て逃げなきゃ)
 ただ、実際体が動いてくれるか、正
直不安だった。
(サキヤくん……)
 さっきまで彼を想って染められた頬
は、すっかり涙で濡れている。
 
 もし逃げる隙が生まれるとすれば、
駅に停まる時なのだろうが、残念なが
ら僕は開かないドア側に立っていた。
 次にコッチ側のドアが開くのは元々
降りる駅。そこまであと5駅もある。

「そろそろ限界なんじゃない? イッ
ちゃってもいいよ。制服が汚れないよ
うに、コレ、出す?」
 ガチャガチャとベルトを緩める音が
遠くに聞こえる。その間も別の手が股
間を扱いた。
射精を促すための激しい律動に、抗う
心は風前のともし火。
(もう、だめかも……)
 悲しい諦めと、
(射精をしてしまえば、きっと終われ
る)
 虚しい希望。
 でも、
「ソッチが終わったら、ここにブチ込
んであげるからね」
 待っていたのは、絶望だった。

(どうしてこんなことに? どうして
どうして、僕は……)
 やっと解った柔らかいものが、深い
闇に沈んでいく。
(サキヤくん、ゴメンね……)
 心の中でもう一度だけ彼を呼び、全
ての希望を捨てた。

 その時、ふいに温もりが瞳を覆う。
「何も見んじゃねぇ。目ぇつぶってろ」
 ひどく懐かしい声と掌の感触。
(サキヤくん!)

 彼の腕の中で聞く鈍い音と悲鳴。で
も僕は、サキヤくんに会えた安堵感か
ら、そのまま意識を手放してしまう。
 風の匂いに包まれながら。

「ここは?」
「駅」
 気が付くと、ホームの一番端のベン
チに横たわっていた。
 サキヤくんの膝に頭をのせて……。
「そっか」
「ああ」
 言葉少なに答えるサキヤくんに、い
つもを感じてホッとする。

 気を失っていた時間は、案外短かっ
たらしく、外の光は朝特有のものだっ
た。
 そろそろと体を起こしながら、さり
げなく服を確認する。乱れが一切無い
制服姿。きっと彼がキレイに整えてく
れたんだろう。はだけられた胸元も、
無残に下ろされたファスナーも……。
 羞恥に目眩を覚えたが、もしも彼が
いなかったら、今頃……。

「ありがとう。来てくれて。でも、な
ぜ?」
 サキヤくんはどうしてあの場にいた
んだろう?
「引き返した」
 引き返して電車に乗った? 僕がど
の便に乗るかもわからないのに?
「今日はサボるか」
 僕の疑問は置き去りのまま、ポツリ
とつぶやく。質問なのか、ひとり言な
のか、判別できない微妙なトーンで。
「僕なら大丈夫だよ」
「……」
 無言は賛成してないサイン。
「行こうよ、今からでも」
 これ以上迷惑をかけたくない。
 高校2年の冬は受験に向けて大切な時
期になる。特に推薦枠を狙っているサ
キヤくんにとっては。
「……無理だ」
「だから大丈夫だって!」
 足を引っ張りたくないという想いか
ら、少しだけ調子が強くなる。
「サキヤくんが来てくれたから、そ
の……最悪なコトにはならなかった
し……」
「……そうじゃねぇ」
「え?」
「俺が……、俺が無理なんだよ!」
「はい?」
「いい加減、解れバカ! お前のあん
な姿見て、普通じゃいられねぇっつっ
てんの!」
「!?」
 そうぶっきらぼうに言い、ぷいっと
横を向いた彼の耳たぶは真っ赤だっ
た。

 ねぇ? その赤さの答えも、あの方
程式で解いていいのかな?
 自惚れて、いいのかな?

「サキヤくん。僕、解ったんだ。夕べ
君が言った問いの答え」
「な、なんだよ、突然」
 明らかに動揺した声。そのうろたえ
振りが僕の背中を押す。
「ゴメン、今まで気付かなくて」
「お、まえ……気持ち悪くないのか
よ?」
「何が?」
「男だぞ。俺もお前も」
「そうだね。でも……」
「でも、何だよ」
「僕には……サキヤくんが必要なん
だ。そのサキヤくんがたまたま男だっ
たってだけ」
「っっ!」
「多分さ、ずっと前からそういう事
だったんだよ。気付かなかっただけ
で」
「……」

 僕はそこまで言って立ち上がり、ベ
ンチに座る彼に中腰で目線を合わせ
た。この気持ちを伝えるために。

「僕は君が好き」

 そして、今僕は、公衆の面前で男に
抱きしめられています。
 世界で一番、愛しい人に。

「お前こそ、いい匂い」
「シャンプーかな?」
「ちげーよ。そういうんじゃなくて」
「?」
「真っ白い雪の匂い。俺、この匂い
すっげー好き」
「ふふ。ふふふふ」
「ばっっ! 何笑ってんだよ! その
口塞ぐぞ!」
「いいよぉ。ふふふふ」

 僕らの季節は、始ったばかりです。

       了

短編【キミノニホイ】をお読み頂きま
して、実に有難うございます。

「一行の文字数が少ないな」と感じら
れた方もいらっしゃると思いますが、
携帯から開く場合を想定して、文字数
17文字にさせて頂いております。
 私的には原稿用紙の20文字に合わ
せたかったのですが……仕方ないw

 ではこれからも、どうぞよしなに。
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テーマ : 18禁BL小説
ジャンル : アダルト

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No title

続きが読みたいです。
ちょっと詩のような感じもある素敵なSSですね。
携帯だからかな、この独特のリズムはw

Re: No title>水聖さま

コメに気付かずにすみません!!!!
お越しいただきありがとうございます┏○))

> 続きが読みたいです。
> ちょっと詩のような感じもある素敵なSSですね。
もったいないお言葉!
幸せすぎます!!!!

> 携帯だからかな、この独特のリズムはw
このSSはなろうにUPできる200文字ギリギリになっていまして、
本当はTwitterでやりたかった企画なんですよねぇ。
でも、それだといづれ消えてしまうし……。
まだまだ、計画途中といった感じですw
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鳥舟侑理@長州ユーリ

Author:鳥舟侑理@長州ユーリ
鳥舟侑理@長州ユーリは、
官能BL小説家を目指す
ドSエロ番長です。

当ブログは、
ド下手な自作BL小説を
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お恥ずかしながら
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